同じくヘルン先生の机のある北部屋。
その西側の隅に「雪見窓」のコーナーがあります。

雪見窓とは言っても、この向こうにも縁側がありますし、実際は北側の障子をスパッと引けばいくらでも雪景色が見られたことでしょう。
なので、これはまだ蛍光灯のない時代、しかも冬には部屋を襖などで仕切ってしまうと推察され、であれば昼間でも暗くなりがちな北部屋の一角に設けられた「明かり採り」用の小窓だったと思われます。
でも、こんなデザインの採光用小窓、がばちょっ!と北側全面を障子にするよりも粋じゃないですか。
床材の艶やかさが、水面を思わせて、とするとこの半円の小窓は沈む太陽、もしくは昇る月を模しているのでは?などと想像させてくれます。
このコーナーにもかつては花瓶を置いてお花を飾っていたと床のキズが物語っております。
もちろん小窓上部に竹器の生け花がございますよ。
さて、このコーナー。
窓のデザインもシンプルでステキですが、緑の船が一番心を射ぬかれたのが、この一角にある飾り棚でございます。

ちょっとしたものを収納できる引き戸があります。
木材の色そのままのそっけない色の収納戸。
しかし近寄ってみると、多分漆?だと思うんですが、濃い茶色の上に黒い染料で素朴な植物画が描かれています。
緑の船の目を惹いたのはそのデザイン!

よく山に生えているような、山葡萄の蔓草のような植物が左の引き戸上部と右引き戸の下部にさらっと描かれており、その蔓草の枝に螳螂(カマキリ)が一匹。
それ自体はただ草木を描いた装飾のためのごくごくシンプルな絵にすぎません。。。
だが、よくよく見た後で一旦身を引いて再度眺めてみると…

引き戸の木材の木目が池の水面を描いているということが分かる!
というか、この木目を活かした上で草木、虫を描いたと言うべきだろうか。
「絵」の中の空間が、水紋、草木、その上にいる虫…と違和感なく目線で統一されているのだ。
(こんなに興奮するほど好きなのに肝心の写真がヘボくて凹む…orz...)
傍目にはただじっとこの飾り棚を眺めているだけに見えただろうが、緑の船は心の中で「すごい!すごい!この飾り棚すごーーーい!」ε=ヽ(≧∀≦)ノとごろごろ畳の上を転がり回ってはしゃいでいたのである。
始めはこの植物の装飾画をどうしてこんな地味な色にしたのか、もっとはっきりした色を使えばいいのに…と思っていたが、こうして見ているとこの黒っぽい色だから良いのだと思える。
背景色が木目の地色を活かしているからこそ、黒っぽい色のシンプルな植物とカマキリのデザインがしっくりと一体の「絵」になるのだ。
ここでカマキリと植物だけを「緑」や「金色」などに彩色しても木目の水面とは馴染まないだろう。

飾り棚の意匠に無言のまま胸中で転げ回って感心し、「ふう」と一息ついて腰を伸ばす。
振り返ると、額縁で切り取ったような艶やかな南の庭の「絵」が目に入った。