航海記 ♪歌いながら行くがいい♪
私の船は、時々歌いながら旅に出る。
松江旅情 35 小泉八雲旧居 ⑥新編『日本の面影』

玄関を出て、前庭を改めて眺めてみる。
この扉の向こうにヘルン先生が美しい言葉で綴ってくれた庭があるのだ。
あ、これが例の「手柏」の木かぁ!
昔、わが家にもあったよこの木。
でも「八手」(ヤツデ)って呼んでたなぁ。



ほとんどの武家屋敷にも表門を入ると、たいてい玄関の近くに、大きな独特の葉を持つ丈の低い木が見受けられる。出雲では、その木を「手柏」(てがしわ)と呼び、わが家の玄関の脇にもある。
(…略…)
ところで、昔、家臣が藩主の慣例である江戸への参勤交代にお供をして、家を離れなければならなかったとき、出立の直前に焼いたを手柏の葉に載せて、その家臣に供したと言われている。そして、壮行の宴が終わると、鯛を載せていた手柏の葉は、旅立つ藩士が無事に帰ってくるようにとの祈りを込めて、戸口の上にお守りとして吊るされた。





小泉八雲旧居前庭




ヘルン先生は毎日学校の勤めから帰ってくると、教師用の制服から「ずっと着心地のよい」と綴っていた和装に着替え、庭に面した縁側の日陰にしゃがみこみ、授業を終えた一日の疲れを癒したそうだ。


壊れかけた笠石の下に厚く苔蒸した古い土塀は、町の喧騒さえも遮断してくれるようだ。聞こえてくるものといえば、鳥たちの声、かん高い蝉の声、あるいは長くゆるやかな間をあけながら池に飛び込む蛙の水しぶきだけである。

いや、あの塀は往来と私とを隔てているだけではない。塀の向こう側では、電信、新聞、汽船といった変わりゆく日本が、唸り声をあげている。しかし、この内側には、すべてに安らぎを与える自然の静けさと16世紀の夢の数々が、息づいている。大気そのものに古風な趣が漂っており、辺りには目に見えないなにか心地よいものが、ほのかに感じられる。


新編 日本の面影 / ラフカディオ ハーン…「日本の庭にて」第14章より




北堀8




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