朝、目覚めると、障子から光がやんわりと部屋を満たしている。
その障子を開けると、まるで計算されていたかのように床の間の花器に光が当たった。

ああ、なんと心惹かれる眺めであろうか。
眠りそのもののような靄を染めている、朝一番の淡く艶やかな色合いが、今、目にしている霞の中へ溶けこんでゆく。はるか湖の縁まで長く伸びている、ほんのり色づいた雲のような長い霞の帯。それはまるで、日本の古い絵巻物から抜け出てきたかのようである。この実物を見たことがなければ、あの絵巻物の風景は、画家が気まぐれで描いただけだと思うにちがいない。
(…略…)
やがて太陽が、その黄金色の縁をのぞかせる。すると、淡い紫色やオパール色などの暖かい色調の細い光線が、水面に射しこみ、木々の梢は火が灯ったように赤く染まる。川向こうの高い木造の建物の正面は、美しい霞を通して、しっとりとした黄金色に変わる。
ラフカディオ・ハーン 新編『日本の面影』(訳:池田雅之)
「神々の国の首都」より
